広島高等裁判所 昭和63年(う)181号 判決
所論はまず,原判示第2の(3)について,原判決は,被告人が肝炎を患っていないのにこれを患っているかのように装って入院保険金を請求したと認定したが,血液検査の結果によれば,被告人が昭和61年4月28日K診療所に入院したころ肝炎を患っていたことは事実であり,詐病とはいえない旨主張する。
そこで検討するに,原判決が欺罔行為として認定するところは,要するに,被告人が簡易生命保険契約に基づく入院保険金の受給資格がないのにこれあるように装って入院保険金を請求したというものであるが,本件の場合,入院保険金は,被保険者が保険期間中に疾病にかかり,その疾病を直接の原因として当該保険期間中に病院又は診療所に20日以上入院したとき支払われるものである(改正前の簡易生命保険約款162条の2第1項)ところ,確かに,関係各証拠によれば,被告人は,昭和61年4月14日(原判示第2の(3)の「肝炎」による入院の2週間前)の生化学検査の際,GOT39(基準値40以下),GPT52(同35以下),ガンマーGTP372.6(同50以下)の,同年6月2日(右「肝炎」による入院中)の同検査の際,GOT60,GPT81の,同年7月7日の同検査の際,GOT27,GPT50,ガンマーGTP202.3のそれぞれ検査値を示したことが認められ,右事実によれば,被告人は原判示第2の(3)の入院のころ肝炎ないし肝障害という「疾病」にかかっていた疑いが十分あり,その意味で,原判決が,被告人は肝炎を患っていた事実がないのにこれを患っているかのように装って入院保険金の支払を請求したと認定したのは,事実を誤認しているといわざるを得ない。
しかしながら,被保険者が「疾病」にかかるだけではなく,「その疾病を直接の原因として入院したとき」はじめて本件入院保険金が支払われる(もちろん他の要件も充足することを要する。)ものであるのは前記のとおりであり,右「疾病を直接の原因として入院したとき」とは,疾病の治療を主たる目的として入院したときと解すべきところ,原判示のとおり,被告人は支払限度一杯の120日間の入院(それも退院後間もなくの別病名による再入院)を繰り返している上,「肝炎」による入院中郵政監察官から詐欺の疑いをかけられていることを知るやそれまで多数回にわたって続けてきた保険金の請求をやめて退院していること,「肝炎」による入院中もこれに対する通常の治療がなされた様子はなく,GOT,GPT,ガンマーGTP等の検査値も右入院前後を通じてさほど変わっていないこと,被告人のK診療所における入院態度はすこぶる悪かったことなどからして,被告人の原判示第2の(3)の入院が肝炎ないし肝障害の治療を主たる目的とした入院でなかったことは明らかであり,そうすると,原判示第2の(3)は,被告人が肝炎ないし肝障害の治療を主たる目的とした入院,すなわち肝炎ないし肝障害を直接の原因とした入院でないのにそのように装って入院保険金を請求した事案であるということができる。しかして,原判決の認定した被告人の欺罔行為は,「肝炎を患っていた事実も,その治療を受けていた事実もなく,いわゆる詐病入院であるのにあたかも肝炎を患い,その入院治療を受けているかのように装い,右簡易保険入院証明書を必要書類とともに提出させて前記保険契約に基づく入院保険金の支払を請求した」というのであるが,このうち,肝炎を患っていた事実がないのにあるように装って保険金を請求したとの点は,前記のとおり,事実誤認といわざるを得ないけれども,肝炎の治療を受けていた事実もないのにその入院治療を受けているかのように装って入院保険金の支払を請求したとの点は,措辞やや適切さを欠くとはいえ,前記の肝炎ないし肝障害の治療を主たる目的とした入院,すなわち肝炎ないし肝障害を直接の原因とした入院でないのにそのように装って入院保険金を請求したとの趣旨とみることができるから,前記事実誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。